――プライベートでは結婚・出産・夫の転勤・育児、仕事と家庭のバランスは無理せずその時々で優先順位を考える

岡村:東京時代に夫と知り合い、婚約直後にエチオピアに赴任、一時帰国の時に結婚して、エチオピアに戻り妊娠に気づき30週までいて帰国出産。産休育休の間に夫が北京の日本大使館勤務になり帯同、その間に2番目を出産、UNICEFの育休契約が切れて退職、帰国後日本のコンサルタント会社に転職しました。
ここでは評価案件事業やさまざまな調査に携わり、結果につながるようなよりよい分析技術を身に付けたいと思うようになりました。育児との両立で大学院に戻ろうかと考えていた時、世銀の今のポジションの公募がありました。委託されるのではなく、自分で予算をもって分析をして戦略をたてて何かをやりたいと思っていたので、トライすることにしました。

――世銀の栄養のポスト獲得

岡村:世銀の栄養のポストに日本人を出すのは初めてで今のポストはミッドキャリア、日本政府から2年間給料が支払われ、その後は私次第です。二回の面接は簡単ではなく、答えに詰まったところもありましたが、詰まりながらも今までの経験と経験から得た問題意識、現場にとって有益なことを政策に反映させるという視点をアピールしました。採用にあたってはそこが評価されたのかもしれません。

――好奇心と雑草のような強さ、好きなことだから頑張れる

世銀栄養財政セミナー
世銀栄養財政セミナー

岡村:世銀は大きな組織で、すべての手続きが煩雑、最初はわからないことばかりでした。何か手ほどきがあるわけでなく、自ら学び続けていかなければ組織の中ではやっていけません。量産すればほめられるのではなく、練り上げられた質の高いことを言わないと相手にされない。新しい課題への分析や対応も自分で開拓していかなければならない。世銀のそういった環境が私は好きで、自分が正しいと思うこと、原点に戻って研ぎ澄ませて物事を考え、整理し直すと答えが出てくることを楽しんでいます。
当時6歳と8歳の娘と実母と一緒にこちらに来て、子どもが生活に慣れるまで最初の6カ月は出張できないと上司に言い渡しました。そういうところは尊重される社会です。その代わりやることはやる。自分が心からやりたいと思う仕事、ときめいた仕事だからプレッシャーを感じながらもやり続けられるのだと感じます。

――組織に何かを求めるのではなく、組織を活かしていい仕事をする

岡村:開発関係で仕事を探す場合に、組織によって動き方や仕事のやりやすさ、能力の活かし方はかなり違いますが、いい仕事ができるかどうかは自分次第。感受性の豊かな若いうちに途上国に身を置いて、外から来た自分が現地でどういう役に立つのか?役に立つためにどうすればいいのか?を自分の目でよくみてほしい。その時に感じたこと、体験からわかったことは将来きっと役に立ちます。
また、経験のある人に話を聞きに行き、仕事に対する価値観が合う人、いい仕事されているなと思う人には連絡を取り続け、情報交換をすることも大切です。 高学歴の人が多い国際公務員ですが、順調な道をストレートに歩むことが将来的にいい仕事をすることにつながるとは思いません。いろんな経験をして、困難にぶち当たっても、こういう仕事をしたいという強い意志を持った人が、深みのある仕事をしています。
UNICEF時代に、「組織が自分を活かしてくれると思うのはお門違い。自分が何をやりたくてそこにいるのか、忘れてはいけない」と教えてくれた上司がいました。現場での問題の本質、現実的な対応策の導き方、行動の起こし方を教えてくれた貴重な職場でした。世銀は大きな開発議論の流れや資源配分に関われるという点では他の組織では味わえない醍醐味があることを感じています。
栄養に関しては、2008年頃から栄養が果たす開発効果が数字で示され、世銀の報告書が刊行され、栄養分野の重要性が認識され始めました。私の今の上司がそのレポートのまとめ役でした。栄養はグローバルなレベルとナショナルなレベルで、農業、保健、学校給食、水衛生などマルチセクターに関わる課題です。農業開発でも、栄養士や食品加工業からのアプローチが必要とされ、栄養をきちんとやるという気運は高まっています。
途上国の栄養問題は生活そのもの、姑と夫がメニューを決めて妻や女の子には残り物すら口に入らない社会、下痢などの感染症で赤ちゃんは生まれた時から栄養不良問題を抱えている地域もあります。一方で炭水化物中心の安くてお腹一杯になる食生活による肥満が途上国でもものすごい勢いで増えています。 まさに栄養分野でも、高い専門性を持ちつつ、専門家の眼鏡をはずして現地の事情を理解したうえで栄養改善に取り組める人、それを政策に反映し推進できる行動力のある人材が求められていることをお伝えしたいと思います。

世銀COVID19と栄養に関するオンラインセミナー開催
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インタビュアー 清水眞理子