ビル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバル・デリバリー部門 シニア・アドバイザー(インタビュー当時)
馬渕 俊介  [まぶち しゅんすけ]

馬渕 俊介

1977年米国ペンシルバニア州生まれ。2001年東京大学教養学部卒業(文化人類学専攻)、国際協力機構(JICA)入構。2007年ハーバード大学ケネディスクールMPP取得。2007年~2010年マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、南アフリカ支社勤務。2011年ジョンズ・ホプキンス大学修士号取得。2011年世界銀行入行。2016年ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生博士号取得。2018年ビル&メリンダ・ゲイツ財団入団、デリバリー部門の戦略担当副ディレクター(2018-2019)、グローバル・デリバリー部門のシニア・アドバイザー (2019-現在)、2020年10月〜2021年4月COVID-19対応検証独立パネル事務局。

――大学では文化人類学を専攻、文化相対主義に共感

馬渕:私は学者の家庭で育ったので、普通に会社に入ってサラリーマンになる、ビジネスをやるというイメージはなく、将来は好きなことを探してチャレンジしようと考えていました。中学・高校時代は野球、大学では文化人類学にのめりこみました。きっかけはパプアニューギニアの部族の儀礼の映像を見たことで、冒険心が駆り立てられました。そこには今までの自分の価値観では計り知れない文化があり、文化に優劣はなく、それぞれの文化、社会の合理性があるという文化相対主義に共感し、文化人類学者を目指して休暇中は世界中を旅してまわりました。

ホームステイしたグアテマラの先住民の村で現地語の先生と
ホームステイしたグアテマラの先住民の村で
現地語の先生と

振り返るとこの経験が、開発の仕事をする原点になっています。グアテマラで先住民族の家庭にホームステイしたとき、家族の健康状態が医療アクセスがないためによくなかったこと、ネパールの山奥で知り合った青年はすごく優秀なのに低いカーストなのでいい仕事につく見込みが全くないこと。自分はいかに恵まれているかを知り、その立場を活かして途上国の人びとの生活をサポートできる仕事につきたいと思いました。自分で考え自分でプランをつくる一人旅で視野が広がり成長できたと思います。それが人生を自分でどんどん切り拓いていく今のスタイルにつながる最初の経験でした。

――2001年国際協力機構(JICA)入構

馬渕:JICAに入構、社会開発調査部に配属され、教育や地域開発のプロジェクトに参加し若手でもいきなりプロジェクトをやらせていただけたので、チャレンジは無限にありすごくおもしろかった。
ただ、これは私の力不足でもあるのですが、国内でコンサルタントの方から日本語で多くを学びながら一緒に問題解決をしていく段階ではうまくいきましたが、英語力も専門性も足りないので、外に出て現地の保健大臣、世界銀行の専門家と議論するとなると、途端に議論についていけず、中身の貢献が全くできませんでした。百戦錬磨のコンサルタントに助けてもらう状態で、このままでは開発業界をリードできるような人材になれない、世界を舞台に活躍できないと痛感しました。また開発業界自体がJICAだけではなく、結果に対する執着、インパクトにつなげるための考えが浅く、本当に開発事業で途上国の役に立てているのかという疑問が出てきました。英語力と専門性を身につけたいと思いハーバード・ケネディスクールに留学、JICAには4年半お世話になりました。

――ハーバード・ケネディスクールの学びで次の目標が決まる

ハーバード・ケネディスクールで学長賞を受賞
ハーバード・ケネディスクールで学長賞を受賞

馬渕:エキサイティングな日々で非常に充実していました。学生の国際問題に対する意識が高く、知識が豊富。目線の違い、行動力の違いに驚きました。私は、パブリックセクターのベストプラクティスを学びたいと思っていましたが、パブリックセクターを改革しているのは民間の人が民間の組織改革のノウハウでやっていることが多く、民間セクターの方が、洗練された手法をつかって結果を出している。特に経営コンサルティングから来ている人は、大変効率的にプロジェクトを回していました。民間企業の修羅場で問題解決にたちむかって力を磨く経験をしたいと思い、卒業後マッキンゼーに行くことにしました。

――マッキンゼーでは日本支社に1年、南アフリカ支社に2年在籍、グローバルヘルスに関心が広がる

馬渕:マッキンゼーには、優秀な若手がたくさんいて、研ぎ澄まされた問題解決アプローチ、すばらしいノウハウが蓄積されています。大変刺激を受けましたが、仕事に慣れてくるうちに、将来的に世界を舞台に活躍するには英語でマッキンゼーレベルの問題解決ができるようにならないといけないと思い、海外に出る道を考えました。そのタイミングで、ハーバードで知り合った途上国経験豊かな女性と結婚したので、彼女がUNICEFでの仕事を始める際に同じ勤務地を探し、私はマッキンゼーの南アフリカ支社、彼女も南アフリカのオフィスにアプライして二人で着任しました。
南アフリカは気候もよく自然が美しい、しかし仕事は大変でした。チームリーダーを任されていたのでチームをリードしなくてはいけない。私以外は英語ネイティブで、頭の回転が速いメンバーの英語を聞き取って考えて発信するというプロセスが間に合わなくてとても苦労しましたが、ここでの苦労が、その後の仕事で本当に活きました。また、組織のオペレーションシステムをどう改革するかを一貫して学べたのは大きな収穫でした。ある日マッキンゼーOBのアフリカ人が、マッキンゼーで培ったオペレーション改革のノウハウをつかってアフリカのHIV/エイズ対策で大活躍したという記事をみつけました。またゲイツ財団の仕事も請け負い、医療のバックグラウンドがなくても、組織改革のノウハウがグローバルヘルスで活かせるというイメージがわき、グローバルヘルスに関わりたいと思うようになりました。