独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)
国際部長 佐藤 淳子  [さとう じゅんこ]

佐藤 淳子

1990 年3 月共立薬科大学卒業。1990年4月東京慈恵会医科大学助手(~1998年3月)。1997年11月医学博士号取得。1998年4月国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター審査官。2002年9月米国食品医薬品局(U.S.FDA)に Guest Reviewer として駐在(~2003年3月)。2004年4月改組により(独)医薬品医療機器総合機構主任専門員。2007年4月(独)医薬品医療機器総合機構審査役。2012年5月欧州医薬品庁(EMA)にLiaison Officer として駐在(~14年4月)。2016年4月国際業務調整役を経て国際協力室室長(~18年7月)。2018年8月より現職。

――薬学を専攻し、研究職を経て薬事行政に携わる

佐藤:大学では薬学を専攻し、卒業後は東京慈恵会医科大学の助手に採用され、学生教育の補助をしつつ研究を続けました。薬の副作用のメカニズムを知るために、ぜんそく薬や抗菌薬についてどういう機序でけいれんなどの副作用がおこるのかについて研究していました。その間に関連病院で薬剤師のアルバイトをしていた時に、正式に日本で承認されていない薬を患者さんに調剤する機会がありました。外国では薬として承認されていますが、日本では実験用試薬としてのみ入手可能でした。患者さんは効果が認められているので納得して服用されておられましたが、医師の指示で調剤していても薬剤師免許をはく奪されるのではないかという不安を感じました。医師や薬剤師、そして、処方される患者さんが不安に思うそういう環境は改善されるべきだと思っていたところ、1997年7月にPMDAの前身、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターに薬の審査をする部門が設立されました。ちょうど博士号を取得した時で、1998年4月に入職、薬事行政に携わることになりました。

――薬を世に出す責任を痛感

佐藤:当時、脳梗塞後遺症の軽減を効能効果とする医薬品が複数承認され使われていましたが、薬効に疑問の声が上がり、再度、評価をした結果、有効性は認められないとして承認が取り消されたことがありました。今までその薬を飲んでいた患者さんからの苦情が殺到、医療者に言えない不安不満を伺う機会がありました。その時の経験、薬を世に出す責任、患者さんのために薬はあるとの思いが私の原点のひとつになっています。

――2002年米国食品医薬品局(U.S.FDA)に出向

佐藤:FDAは米連邦機関のひとつで、「医薬品や医療機器の安全性と有効性を保証することによって国民の健康を守ること」を責務としています。英語での仕事は、着任するまで不安でしたが、始めると何とかなるもの、何とかしなくてはいけないのが仕事です。ここでは薬の承認審査をするときも公聴会のような形をとり、一般の人も傍聴可能、治験に参加した患者さんが感想を述べる時間もあり、開かれた議論がされていることに驚きました。日本では、厚労省・PMDA職員や外部の専門家で議論し、申請企業も、一般の人もいないところで薬の承認の可否が議論されています。
車や電化製品等の製品開発ではユーザーの声を聞いて行われるのに、薬にはそれがない。このような状況を変えていくために、PMDAでは使用者である患者さんの声を取り入れ、患者参画、患者協同に向けた活動を進めています。欧米では3-40年前からやっていることですが、FDAへの出向でその思いは強くなりました。

――2009年ロンドンの欧州医薬品庁(EMA)に出向

佐藤:アメリカから帰国後PMDAに戻り、並行して大学で客員講師として研究と学生指導にあたっていました。2009年に、PMDA内でEMAにリエゾンオフィサーとして職員を派遣するシステムができ、2012年2代目のオフィサーとしてロンドンに派遣されました。
私は帰国子女でもなく流暢な英語を操れるとは思っていませんが、相手が誰であっても、必ずwin-winとなるよう、相手の気持ちを慮ることには気を付けています。自分が前に出るのもひとつの戦略ですが、一歩ひいたところで誰かを引き立て、応援するのも大事です。以前、控え目なある国の人が、とてもいい考えを持っていたので、コーヒーブレイクの時間に「こういうふうに言ったらきっと皆評価してくれるはず」とささやいて、会議でその人が発言できるよう水をむけました。そうして信頼関係ができ、その後、別の会議でもPMDAの立場を尊重してくれることが多くなりました。そういう人間関係づくりを私は重要視しています。

――2000年ICHのガイドライン策定メンバーに指名、2010年Drug Information Association優秀賞受賞

佐藤:30の各国規制当局から構成される国際薬事規制当局プログラム(IPRP)の議長、国際医学団体協議会(CIOMS:1949年にWHOとUNESCOが共同で設立した国際的学術団体でスイスのジュネーブに本部を置く非政府組織)のワーキンググループメンバーにも推薦され、日本で薬の審査、安全対策をしつつ並行して国際会議にも出席しています。2000年に、初めてICHのガイドライン策定メンバーに指名されたときは驚きましたが、成し遂げるしかないとの思いで全力で取り組みました。

ICH策定メンバーとディナー
ICH策定メンバーとディナー

大切なのはコミュニケーションスキルだと思います。人と仲良くなるのは得意です。それは特別なことではなく自分のことをわかってもらうために、会合などで初めて会った人とも積極的に話すようにしています。仕事と直接関係ないことでも、言葉を交わすとお互いの人となりがわかり、仕事もうまく進みます。