――安心安全の医薬品を世界の患者さんに届けるための国際協力とは

佐藤:日本はアジアの一国であり、アジアとの関係強化が重要だと思っています。国際共同治験はインフラが整っているという理由で米、英、独などと実施することが多いのですが、食生活、体格、文化、遺伝学的にも近いアジアの人と一緒に治験を実施した方がより日本人に近いデータがとれるように思います。
アジア諸国では、欧米で承認された薬を欧米の人に適正とされる量でアジアの人びとに投与されている現実があります。欧米人と同じ量の薬を同じ回数アジア人に投与して、欧米人と同様の安全性と有効性が得られるのかを確認しないまま使われています。このような状況を改善し、よりよい薬物治療をアジア諸国にもたらすべく、日本、ベトナム、タイなどが協力して薬の開発、治験を進めていくため、薬事規制当局による連携やNCGMやNCCによる臨床試験ネットワークづくりが進めています。このような活動をとおして、我が国と近隣諸国にwin-winの関係を作ることが出来ると考えています。

学会にもいろいろ参加して最新情報を入手したり、人とのつながりを大切にしています。今、私は規制当局と言われる組織に属し、薬剤耐性菌(AMR)治療薬の開発に関係するプロジェクトにもかかわっていますが、規制当局のみでは、このようなプロジェクトを進めるのに限界があります。FDAやEMAとともに、欧米の学会にセッションを持つなど、関係する学会等と一緒になって活動することで実現可能になることもあります。日本のみならず海外の学会にも参加して、重要なステークホルダーとのつながりを大事にしています。

インド・日本シンポジウムでパネラーを務める
インド・日本シンポジウムでパネラーを務める
中国CDEにて
中国CDEにて

 

――規制当局とはゲートキーパーであると同時にゲートオープナーであるべき

佐藤:患者さんが安心して薬を使えるように、有効性と安全性のバランスがきちんととれている医薬品を世に出すゲートキーパーの役割を果たすと同時に、iPS細胞のような研究室でどんどん創出される新しい技術を早く実用化していくゲートオープナーでありたいと思います。
国を超えた規制当局間の調整、あわせて他のステークホルダーとの協調、企業と当局は一線を引いておかなければいけませんが、敵味方ではなく、協力者として、対峙すれば、患者さんのメリットも増えるはずです。
またマスメディアの人と協力し、医療を専門としない人にもわかりやすく医薬品事情を発信し、共感が得られると、新しい一歩が踏み出せると考えています。

――薬剤師が貢献できるエリアは広い

DDS学会表彰
DDS学会表彰

佐藤:薬学出身者は真面目で一つのものを追及する能力にたけています。一方で広範な知識をもっているのに、それを100%活かせていない人がいて、もったいないように感じています。
PMDAは国民の命と健康を守り、医療の進歩を支えるために、新卒・既卒問わず、定期募集と技術系専門職採用では随時公募しています。入職後も専門性を高めるためにさまざまな研修プランがあり、英語は必要なスキルなので業務上必要とする職員に対しては、充実した英語研修も実施しています。(PMDAの業務・職員紹介「Our Wishes」
広い視野でいろいろなことに関心をもち、違う業種の方と交流すれば、薬学の領域で何かをするときにも深みができます。
その意味で、グローバルヘルスは素晴らしいスペースを与えてくれるものと思います。思い切って一歩を踏み出されたらいかがでしょうか?日本の薬剤師が薬をとおして世界の人びとの健康に貢献する、そんな仲間が増えることを大いに期待しています。

インタビュアー 清水眞理子