世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局
コミュニケーションコンサルタント 別府 京  [べっぷ みやこ]

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1985 年京都府出身。2007年奈良女子大学 生活環境学部 食物科学科卒業。2009年東京大学大学院 医学系研究科 国際地域保健学教室卒業(Master of Public Health 取得)。2009年電通サドラー・アンド・ヘネシー株式会社 メディカル ライター。2014年アストラゼネカ株式会社 コーポレートアフェアーズ統括部 パブリックリ レーションズ。2021年WHO 西太平洋地域事務局コミュニケーションコンサルタント。

――ラオスでのフィールドワークをきっかけに、健康分野におけるコミュニケーションに関心をもつ

別府:私は幼い頃から食べることや料理が好きで、大学では食物科学を専攻し、亜鉛が骨の代謝に与える影響を研究していました。実験を繰り返す中で、様々な食品を自由に食べられるようになった現在に、私たちがより健康になるには、栄養素の働きを理解することに加えて、健康的な食べ方や生活を理解し、それぞれの生活に習慣として定着させていくことが重要なのではと考えるようになりました。次第に人間の健康行動について研究をしたいと思うよりになり、大学卒業後、東京大学大学院医学系研究科の国際地域保健学教室に進学しました。同教室では、留学生が半分以上を占め、授業は英語で行われ、フィールドワークを中心としたプログラムで、座学では国際地域保健学、統計学、ヘルスプロモーションなどを学びました。フィールドワークはご縁のあったラオスで実施させていただき、そこで得た気づきが、その後の私のキャリアの方向性を決定づけるものとなりました。

――人は理論を振りかざしても動かない

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調査を実施したラオスのSavannakhet県Sepon地区の農村

別府:ラオス政府は当時、医療従事者の数が十分でないことから、コミュニティヘルスワーカー(CHW)による一次治療を推進しようとしていましたが、人々はCHWをあまり利用していませんでした。そこで、CHW普及重点地域の母親を対象に、CHWの利用因子調査を行いました。CWHが持っている医薬品は、西洋医学の観点からはほぼ唯一の医療資源と考えられたため、当初私は、高等教育を受けている人ほどCHWを利用すると仮説を立てました。しかし、調査の結果わかったことは、CHWの家から3キロ圏内に住んでいる人はCHWを利用し、そうでない人は他の方法を探す、ただそれだけでした。これは考えてみれば当たり前の結果で、山間部の多いラオスでは隣の村に行くだけでも一苦労、CHWの家を訪問するために毎回病人を連れて3キロ以上の山道を歩かなければならないとなれば、多くの人は他の方法を検討するでしょう。この結果から、人は基本的に、「嬉しい、美味しい、楽だ」などの根源的な欲求に基づいて行動しており、その欲求への理解が十分でない提案はいくら内容が正しいものだとしても、多くの人は受け入れないのだと再認識しました。そして、様々な健康政策が、より現地の人々に分かりやすい、受け入れられやすい形で発信・実施されれば、より多くの人に理解され、より大きな行動変容につながるのではと思い、健康分野の中でも「コミュニケーション」に強い関心を持つようになりました。そこから、将来は健康分野におけるコミュニケーションを仕事としていきたいと考えるようになりました。

――新卒の就職活動は苦戦、自分の想いに自問自答の日々

別府:新卒時の就職活動は、大手の人材紹介会社のサイトに登録し、新聞社、広告会社、製薬会社、素材メーカー、食品メーカー、化学メーカー、健康アプリのスタートアップなど、かなりの数の企業を調べ、説明会に参加しました。しかし、最終選考まで進んでも「やはりここではないかも」と自ら辞退することもあり、私自身の想いが定まっていなかったために苦戦しました。「コミュニケーション」と「健康」という軸で探していましたが、当時公衆衛生のバックグラウンドを持つ新卒を求める企業は少なく、また、私が「コミュニケーションを通じて人を健康にしたい」といった具体的な希望を持っていたことから、企業としては扱いづらいと捉えたのかもしれません。周りが次々と就職先を決めていく中で、「新卒の就職活動でそのような軸は持たない方が良いのでは」や、「そもそも公衆衛生を学んで民間企業に行く選択をしたことが間違っていたのでは」といった不安ばかりを感じる日々でした。

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アストラゼネカで携わった市民公開講座の様子

縁あって電通の子会社の、医療専門の広告会社に採用が決まり、クライアントとやり取りをしながら、新薬に関する技術的な内容を正しく分かりやすい表現に変えて資材に落とし込んでいくというメディカルライターとして、約5年半働きました。その後、アストラゼネカ社の広報に転職し、産・育休を挟み約7年働きました。アストラゼネカは社員の自主性を尊重する会社で、物事が動くスピードも早かったため、組織としてのコミュニケーション、製品のコミュニケーション、サステナビリティのコミュニケーションと、様々な仕事に挑戦できました。製薬会社の広報として充実した会社員生活を送っていたものの、グローバルヘルスに関わりたいという想いは持ち続けていたため、グローバルヘルス人材戦略センターの「人材登録システム」に登録し、空席情報を受け取っていました。そこで現職の募集があることを知り、同センター開催のオンライン説明会*に参加しました。この説明会で業務内容だけでなく、ポジションが設けられた背景、期待されていること、給与レベルなど、募集要項だけでは十分に知りえなかった情報が得られ、具体的な業務イメージを持って応募することができました。

*グローバルヘルス人材戦略センターが2021年5月より実施しているオンラインでの就職説明会。
募集機関の担当者から直接話を聞くことができる。