――WHOに入るためには

岡安:私の場合、私の能力・適性を知っていたインターン時代の上司の紹介、推薦が大きかったです。私の同僚もインターン、コンサルタント、またはプロジェクトのパートナーとしてWHOと仕事をしていて、その後、適切なポジションが空いた際にWHOに入ったという人が多いように思います。
欧米の人は複数の仕事をかけもち、いいポジションがあればそちらに行く。そういうフレキシブルな生き方をする人がたくさんいます。そうやってネットワークを広げ、機会があればWHOに入るという人が多くいます。採用する側としてもまったく知らない人と1から一緒にやるよりはよく知っている人と仕事をした方が安心だということもあると思います。
今は、インターネットを介して公募をするので国際機関の1つのポストに2-300の応募があることも珍しくないです。その中の一人になるのは非常に大変なので、最初は何らかの形で関わって、自分を知ってもらうのが良いのではないかと思います。

――WHO本部とカントリーオフィスで経験を積む

マラリアの現地調査(カンボジア)
マラリアの現地調査(カンボジア)

岡安:2008年から17年までジュネーブのWHO本部でポリオワクチンのプロジェクトに携わり、最後の4-5年はポリオに関する専門家委員会の事務局も担当しました。地球上からポリオを根絶するというミッションは非常に明確でしたし、ポリオ撲滅に情熱を注いでいた同僚と仕事をすることができ充実した日々でした。また、子どもが生まれた時期で、家族に親切な職場やジュネーブの文化は非常にありがたかったです。
その後もっと見聞を広めるために、カントリーオフィスに行ってみたいと思うようになり、ご縁があり、メコン地域(カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、ベトナム)のマラリア撲滅のコーディネーターのお話をいただきました。

レンサップ湖の水上コミュニティへの訪問
レンサップ湖の水上コミュニティへの訪問

耐性マラリアの撲滅は、メコン地域諸国(ラオス・カンボジア・タイ・ベトナム・ミヤンマ―)の優先課題ですが、これらの国では多くのドナーやパートナーが活動しており、活動の調整が大きな課題になっていました。そこでWHOはカンボジアの国オフィスに調整チームをおいてメコン地域のマラリア撲滅にむけて技術的アドバイスとパートナー間の調整を行っています。マラリア対策では専門家の中でも意見が分かれることがあり、何を優先課題にするかの議論をまとめるのは大変でしたが、マラリアが発生する地域に実際に足を運ぶことで、現場の実情、本当の課題が見えるようになったと思います。

――高齢化社会のあるべき姿とは

岡安:WHOの本部、国オフィスで感染症を担当したあと、2019年8月に西太平洋地域事務局(マニラ)に移り高齢化の担当になりました。2019年に西太平洋地域のWHO地域委員会で合意された新しいビジョンでは、4つの優先課題のひとつに高齢化への対応が挙げられております。
1960-70年代の日本ではすべての高齢者が医療を受けられるよう、高齢者医療が無料化され、その後、高齢者の介護を社会全体で支え合うことを目的に介護保険が導入されました。高齢者が健康を維持するためには医療の提供だけでは不十分で高齢者が積極的に社会に参加し続けることができることが大切です。
日本人の職員としては、高齢化が世界で最も進んでいる日本の経験を失敗例も含めてアジアの国々に伝えることができればと思います。また、高齢者が日本の総人口を上回る中国は高齢化対策としてITを積極的に活用しており、かつての日本を上回るスピードで高齢化が進んでいるベトナムには各々の世代がお互いに助け合う”Intergenerational self-help clubs”の仕組みができています。
WHOとして、このように様々な国がお互いの経験に学ぶことができるような仕組みを作っていくことができればと考えています。その一環として、いろいろな国の専門家や実務家に聞き取り調査や訪問をして、今後の高齢化対策についてあるべき姿をまとめた高齢化のためのアクションプランを昨年発表しました。

――グローバルヘルスは医学の知識を活かしながら社会課題解決に貢献できる

岡安:医学部卒業後の医師の進路は臨床、基礎研究が主ですが、グローバルヘルスの分野は今まで学んできた医学やマネジメントの経験・知識を活かしながら様々な分野の専門家と一緒に社会課題解決、国の発展や人の健康に貢献できる素晴らしい仕事だと思います。例えば、高齢化への対応では、国によって事情は千差万別で、日々の仕事の中では、医療だけではなく、社会環境や文化、伝統、政治経済、制度設計、コミュニケーション、イノベーションなど多種多様な知識が必要とされます。
医学に限らず、いろいろなことに興味があり、いろいろな国の課題解決に貢献したいと考えている方にはぜひグルーバルヘルスの分野も選択肢として考えていただければ幸いです。

インタビュアー 清水眞理子