――ライフワークは人材育成・組織開発と医療政策

小野崎:私のライフワークは2つあります。ひとつは組織人事・人材開発 もうひとつは医療政策です。
企業や医療機関のアドバイザー、組織トップや幹部のコーチングのほか、教育活動としては聖路加をはじめとする大学で主に医療従事者や医療関係者の皆さんに医療政策や医療セクターにおけるリーダーシップ開発などの授業を担当しています。これらに加え、社会活動として、地方でのヘルスプロモーションや、NPOの経営支援などに取り組んでいます。
私は「たたき上げ」ですし、自分の能力は限りがあることは重々わかっていますから、少しでも他の人のよいところを引き出して背中を押す、意欲ある人を黒子として支えることに力を注いでいます。

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日本医療政策機構主催の医療政策アカデミーで講義
(同機構のHPより)

過労とストレスで両親が体調をくずし、10代の頃は寿司屋や工場で働きながら学校に通いました。一人くらい大学に行ってほしいと懇願され進学しましたが、本当は大学に進学できるような環境ではなかった。社会人になってからも、借金返済のためにしばらくは週末に会社に内緒でアルバイトをしていました。当時はいろいろ思い悩むこともありましたが、でも、今思えばラッキーでした。そういう経験があったからこそ、本当に困っている人、何らかの事情で力を発揮できない人の気持ちが痛いほどわかるように思います。大企業のアドバイザーをしていても、仕事の大失敗とか、人生うまく行かないで悶々と悩んでいるとか、そういう人の気持ちに寄り添いながらサポートできるようになったと思います。
公衆衛生をはじめとする公共政策の世界は常に格差との戦いとも言えます。今ですとCovid-19で脆弱な人ほど影響を受けてしまう。行政官や政治家だけではなく、企業でも、リーダーたる人は、こうした「本当に困っている人」のことにも思いを馳せつつ、同時に国家の財政や安全保障、そして次の世代のことを両立させないとといけないと強く思います。

――最後に後輩へのアドバイス、メッセージをお願いします

小野崎:自分の人生ですから、やりたいことがあればやって、失敗もどんどんすればよいと思います。やりたいことをするためには一定の準備と努力必要ですし、我慢が必要な期間もあるかもしれません。尊敬できる人にアドバイスを求めることも大切ですが、まずは自分自身の性格や特徴を良く知ること、周りとの過度な比較はしないことではないでしょうか。今苦労している人や悩んでいる人も、きっとそういう経験が活きる日が来ると思います。

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大学院での医療政策の講義(慶應義塾大学にて)

アドバイスを求められる側として気をつけているのは、むやみやたらに「答え」らしきものを言わない、決めつけない、否定しない、といったことでしょうか。実は、私自身も原体験があります。小学校から中学時代、私は考古学に興味をもち、専門書を読み漁るうちに将来研究者になりたいと思うようになりました。かなり真剣だったんです。そんななか、地元の遺跡の発掘調査現場で専門家と会えることになりました。嬉しくて胸をワクワクさせながら、一生懸命自分が考えていることを説明した後「将来考古学を仕事にしたいんです!」と言ったところ「そんなことやめた方がいいよ。どうせ食えないから。」と一言で会話が終わってしまいました。今となれば、おそらく家族を支えていたのであろうその方のアドバイスは理解できますが、すごくショックでした。目をキラキラ輝かせて将来の夢を語る少年にそういうことを言い放つのはどうなのだろうと。親や先生は無意識のうちに、もしかすると頭ごなしに、そういうことを言いがちかもしれません。知識や情報は伝えても、自分の価値観や願望を押しつけないように、自分も気を付けています。
どうも最近は大国が自分のことしか考えていないように見えます。それでは平和は守れません。大国間の関係や東アジア情勢を見ても、今ほど国際協力、国際協調が必要な時代はありません。グローバルに協力してやっていくときに日本が果たす役割は大きい。日本の影響力はまだまだ大きいし、日本がプレゼンスを発揮する、日本人がリーダーシップを発揮するというのは日本のためだけでなく、世界にとって極めて重要です。そして日本がリーダーシップをとれる外交の鍵になるのが保健セクターです。地球規模課題に向き合い、世界に貢献できる方がもっともっと必要です。私はそのための人材の発掘や養成を、微力ながら少しでもお手伝いしたいと思います。

インタビュアー 清水眞理子