――トンガでは一国全体の保健行政をサポート、責任は重大でやりがいを感じる

瀬戸屋:トンガでの仕事は当初、フィジー時代のように太平洋諸国のメンタルヘルス事業へのサポートと、オフィスの代表としてトンガ政府の保健全体のサポートを任されました。昨年からはCLO(country liaison officer)としてトンガの仕事に専念しています。
サイクロンが2回、コロナ、火山噴火による津波、と平場と非常事態両方経験しています。WHOの方針や情報を適切な時に少し先を読んで適切に助言することで人命を救う、緊張感のある仕事で、とてもやりがいがあります。私の助言で国の政策が決まることも多いので責任は重大で、非常時には毎週のように国の中枢をつかさどる保健大臣らと会って、協議します。ここ2年間はコロナの対応で非常に忙しく、その時々の最新の情報を保健省に伝えたり、彼らからの緊急な質問に答えたりしています。また様々なドナーからの支援が、保健省のプランとうまく合致するように、うまくWHOが入って調整しています。たとえばコロナワクチンについては、適切な時期に適切な量をCOVAXやドナー国からトンガへ支援していただくよう計らいました。日本からもCOVAXを通じて、ワクチンを支援していただいています。保健省の地道な努力もあって、コロナが実際に入ってくる前に多くの人々に接種することができたので、トンガでは多くの人命を救うことができました。

COVID-19ワクチン接種(トンガ首都ヌクアロファ)
COVID-19ワクチン接種(トンガ首都ヌクアロファ)
COVID-19ワクチン接種後島民と
COVID-19ワクチン接種後島民と

――国際機関で日本人は評価されている、ハンディがあるとすれば英語力とネットワークづくり

瀬戸屋:日本人の真面目さ責任感の強さはWHOでも評価されていて、一定程度の英語力と専門性、それから外にでてやってみたいという熱意があれば大丈夫です。日本人できちんと仕事ができる人であれば、英語さえできれば通用すると感じています。英語力は必要ですが、流暢にしゃべることにこだわるより、要点をまとめ、言いたいことを伝える情熱があれば大丈夫です。
しかしネットワークという面で不利はあるかもしれません。組織が人を雇うとき、その人の能力は大事ですが、その人がどういうつながり、ネットワークを持ってこられるかも加味されます。私の場合は前職時代からアジアの国際精神保健関係者とは結構つながっていました。ジュネーブ本部からフィジーに移る時も完全な公募でしたが、本部の経験から本部のネットワークがあり、かつ国際保健の著名な研究者とつながりがある、ネットワークごと私を評価してくれるところはあったと思います。日本国内だけで活動していると国際的なネットワークづくりが難しいかもしれませんが、国際学会に参加する、アポを取って積極的に会いに行くなど自分の努力で克服できると思います。私も休暇を利用してインドの有名な精神科医師に会いに行ったり、国際精神保健の若手を育てる1カ月の研修会がメルボルン大学であって参加したりしました。ネットワークは努力次第でつくり方はいろいろあります。

――海外勤務、家族の幸せとのバランスが大切

瀬戸屋:JPOに受かりWHOのジュネーブへの赴任が決まった時、子どもは4歳と7歳、妻は大学准教授のポストを得ていましたが、辞めてついてきてくれました。子どもたちはフランス語の現地の学校に入り、最初は苦労したと思います。次にフィジーに行き、今度は英語の学校に入学しましたが、フランス語を知っていたので英語にはすぐなじみました。ジュネーブ3年フィジー3年、計6年間外国で教育を受け、日本語、漢字などあやしくなっていました。

r18_setoya_8.png
家族とフィジーのホテルにて

そしてトンガに移る段階で上の子は海外で勉強を続けるか、日本にもどって日本の教育を受けきちんと日本語をつかえるようにするのか最後のタイミングで、日本に帰そうという結論に至りました。2017年私はトンガに、家族は日本に戻りました。妻も元の職場に非常勤で戻ってコツコツと研究を続け、今年正教授に就任しました。妻のキャリアを中断してしまったことが気になっていたのですが、よく頑張ったと思います。子どもについても日本の学校になじめるか心配しましたが、外国で子どもなりに厳しい環境を生き抜いてきたので順応性があって杞憂におわりました。

――後輩にもぜひ世界を目指してほしい

r18_setoya_9.png
サイア・ピウカラ保健大臣(トンガ)
テドロスWHO事務局長と

瀬戸屋:真面目さ、一生懸命やるところ、きちんと頭で考えて改善する意識のある日本人は評価されているのでWHOやその他の国際機関の仕事に興味をもってほしいと思います。
私はメンタルヘルスの専門家でPhDはもっていますが医師でありません。JPOで行った後も、正直WHOで残るのは難しいのではないかと思っていました。実際行ってみるとWHOには医師以外の人も多く活躍していて、きちんと仕事をすれば評価されることがわかりました。完璧に正確な英語力を求める必要はありません。発言する勇気、会議の中で話を聞いて要点をズバッと言う能力、会議の前から根回ししてまわりの理解を得ておくといったことの方が大切です。若いうちに旅行でも短期の語学留学でも良いので海外に出て、生まれ育った日本以外の地を知ること、日本語の通じないところで生き延びる術を学ぶのはよい経験になるでしょう。「精神的に満たされてこそ、本当に健康である。」 WHOは、精神保健に関しての様々なギャップを是正することを目標として掲げています。男女は対等ですし、日本人は拠出金に比して人材が限られているので有利です。私は安定した職場にいて、それを投げ捨てて、2年間JPOで行きました。その後本採用されるかどうかわからない状況でしたが、本当に行ってよかったと思います。確かに日本にいて研究や政策立案に従事したり、臨床で日々患者さんに感謝されたりするのも立派な貢献ですが、ワールド・ワイドな視点でひとつの国の制度を変えることができる醍醐味を経験してほしいと思います。

ツバル保健省メンバーと
ツバル保健省メンバーと
WHOサモアオフィスのメンバーと夕食会
WHOサモアオフィスのメンバーと夕食会

インタビュアー 清水眞理子