――WHOのバングラデシュの国事務所(country office)で看護と助産担当

谷水:ダッカには覚悟して行きましたが、カルチャーショックは大きかった。暑い、くさいうるさい、人が多すぎ、人の距離感が近い、トイレに紙がない、水もない。そこに2年半いました。WHOの国事務所には数年前まで看護と助産のポストがあったそうですが、私が引き継ぐ前任者はいない、看護、助産のプロジェクトは他の国際機関、民間援助機関、NGOなどがすでにそれぞれに仕事を進めている中にWHOの職員としてポツンと入れられる形でした。ある国際機関の助産担当トップはアメリカの白人、50代後半でP4、私はP2、初めて会ったとき「なぜP2のあなたがこんな大事な役目にいるの?」と言われました。私は2年後、「P2の私でよかった」と言わせてみせると決心、他の国連機関、NGOとどうやって連携、調整するのか、現地の機関で働いている人にこちらからどんどん話しかけ、情報収集しました。政府はWHOというだけで信頼して話す機会をつくってくれそれはラッキーでした。様々なステークホルダーが思い描くゴール、ビジョン、相違点がわかりました。ゴールは同じなのにやり方が違い、お金の無駄がある。私の役目はコーディネーションと気がつきました。看護と助産のプロジェクトに関わっている機関、組織を全部集めて、1か月に1回プロジェクトの進捗状況を報告するミーティングを開くことを決めました。

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2018年バングラデシュ・コックスバザールのロヒンギャ難民
キャンプでNGOが設置した医療センターを訪問

皆がやりたいと思っていることのひとつが看護と助産のアクレディテーションでした。私が調整役を買って出て、まず自分から持っている情報をオープンにしました。自分からアイデアやタイムスケジュール、予算をオープンにし、「共通のゴールに向かって皆で協力して進めたい」と提案すると思いのほかうまくいき、上司からも認めらました。WHOは数字で評価されることが多いのですが、コーディネーションは数字に表われにくい作業です。しかしP2なのにすごいとそれを評価してくれる上司に恵まれました。ほかの機関とミーティングするときも「WHOには日本人のアイっていう子いるよね」と覚えてもらい、政府側には「私たちはコーディネーション・ミーティングで情報共有している。あなたたちのビジョンのために一緒に働いているから」と伝え、仕事がスムーズにいくようになりました。

2020年コロナになり他の機関の国際スタッフが帰国、結局そのコーディネーション・グループで残った国際スタッフは私だけでした。最初は疲れることが多く、ずっと泣いていましたが、最後は感謝され任期を終えました。

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2019年バングラデシュ看護規制機関長(左から6番目)を囲んで当時のチームリーダー(左から5番目)チームメンバーと記念撮影

――JPOから正規職員になるために

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2016年トロント大学院卒業式に母が来てくれた

谷水:JPOの後、P2かP3で正規職員として残るためにはまた試練がありました。バングラオフィスでP4のテンポラリーのポストが空くことがわかり、その時のチームリーダーから受けるよう進められましたが、結果的に落ちました。理由を聞いてみると、「提出した書類の書き方が悪い、経歴が看護ばかりであなたの強みが伝わっていない」WHO本部(HQ)のJPOセンターの人が、レジュメの書き方、インタビュー、筆記試験について親身に相談にのってくださり、対策を講じました。本部、地域事務所、国事務所、7つ受け、面接まで5件いき、複数のポストに受かりました。私はがん看護が専門で本部の子宮頸がんプロジェクトのポストに興味がありましたが、1年のテンポラリーP3でした。地域事務所の看護のポストでP4のフィックスト・タームのどちらか迷いましたが、JPOからフィックスト・タームのP4になった人は過去に2-3人。P3で1年後また就活するのなら今P4で働く方がいいとアドバイスを受け、現在に至っています。

――日本の看護制度、看護師はすばらしい、世界でもっと貢献できる

谷水:日本とグローバルヘルスをもっと近づけたいと思っています。日本の看護はすばらしい、世界にもっともっと提供できると日本の外にいる私はみています。先日、日本看護協会の国際部の方と話すことができ、その架け橋になりたいと思います。看護師として臨床だけではなく国際機関やNGOでプロジェクトに携わることもやりがいがあります。

日本財団と笹川保健財団が看護師対象にアメリカ、カナダのトップ10校の大学院にフルカバーの奨学金を出してくれる制度ができました。日本の基礎看護のスキルにグローバルな視点を学び日本に持ち帰る、院内環境の改善、スタッフのスキルアッププロジェクトなど看護目線での医療の質の向上に貢献できると思います。

国際学会でも日本人の発表は少ないと言われています。英語に苦手意識があるようですが、非英語圏出身者で発表の際、原稿を読み上げている人もいるくらいで、日本人だってできるはず。間違えても恥ずかしがらず、出ていくこと。その勇気を与えたいと思います。そして仕事がうまくいかず落ち込んだ時の日本人メンターの存在は必要です。一人はしんどいから看護師同士助け合えるシステムの構築にも一役買いたいと思っています。日本人は勤勉で仕事に没頭しすぎるところがあって、案外気楽に手を抜くこともサバイバルの一助になると伝えたいと思います。

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2021年4月7日「世界保健の日」のオンラインイベントで司会進行役を務める

インタビュアー 清水眞理子