――このポストは何を求めているかを見極める

地引:日本国内の大学研究機関等で順調にこられた優秀な方ほどご自分のやり方を変えようとしないので、応募ポストが違っても同じ履歴書を送ってしまわれることがあります。自分の能力で通用すると思われて、2-300人の競争相手がいることが念頭にない。それでなぜ落ちるのかわからないとおっしゃる方にはこちらのアドバイスがなかなか届きません。

松島:国際機関の採用で意識しないといけないのは、採用担当者は採用をオーソライズする必要があるということです。つまり「なぜこの人間を採用したか」を説明する必要がある。書類や面接でその材料をいかに用意してあげるかという勝負でもあるのです。「多分能力はあるけれど説明が難しい」人材は採用されるのが非常に困難です。このあたりを大変分かりやすく説明してくれているのが国際機関人事センターのHPで公開しているUNDPの岡本さんの動画です。国際機関人事センターのHPに「オンラインセミナー応用篇-国際機関の採用プロセス」という題名で載っているので、ぜひご参考になさってください。
また、グローバルヘルス関係で言うと、医師、学者、著名な方などが国際機関を目指すこともよくあると思いますが、そういう方の応募書類でよくありがちなのは、論文や書籍、雑誌の記事や、極端な例ではインタビューなどレファレンスをぎっしり書けるだけ書く方がおられる。実績を残してきたこと、自分がどれだけすごい人材かをアピールしたいと言う気持ちはわかりますが、ただやみくもにたくさん書いてしまうのはむしろ逆効果です。採用側は限られた時間で、その採用ポストに有益な人材の可能性の有無をみなければいけない。長く書くだけ必要なポイントを見落とされる可能性は上がりますし、関係の薄い内容が含まれていると、ざっと見たときに「どういう人材なのか」がわからなくなります。

地引:WHO専門家委員会やGlobal Fund諮問委員会の委員などでは今までの論文実績を列挙することで採用されやすくなるかもしれませんが、求められていないことを書くのはよくないということですね。

松島:もちろん、高い専門性や知識が求められるポスト、それこそ医学が関係するポストでは、そういった研究実績などは重要なポイントになります。一方で、仮に非常に有益な研究や出版をしていても、他にも記載しているものが多ければ多いほど、その有益な研究は目にとまりにくくなり、また印象も与えにくくなります。これはレファレンス部分の書き方だけに限らない話ですが、まずは「このポストは何を求めていて、どういうことを説明してほしいのか」ということを詳細に分析し、そこに向けて、なるべくピンポイントで簡潔に、採用担当者が見やすく、理解しやすく、説明しやすいものを準備していく。それができるかどうかが勝負です。

地引:語学力の課題、面接で自分をうまく説明できるかどうか、履歴書の書き方等は他の機関や我々も受験対策ワークショップなどで対応しつつあります。雇用慣行も変化しつつあるように思いますが、それでも若い方が自力で海外に出ていくのは困難と感じているところがあるのではありませんか?

松島:それについては、私はかなり楽観視しています。というのも、若い世代はすでに自然体でそういうことを考えるような環境になってきている、と肌で感じているからです。例えば、今の若い人達に「今後40年間同一組織で働きたいですか?」と聞くと多分多くの人は「それを望まない」と答えるでしょう。今後、転職市場はさらに活発化し、若い世代にとっての転職、次のキャリアを考えることは普通のことになる。国際機関に日本人が増えてほしいという私の仕事は、その時の選択肢の一つに国際機関就職を入りこませるというくらいでいいのかもしれないと考えると、どんどんやりやすくなってきているなと感じています。
また、若い世代のことだけでなく、ハイランクのポストにつく日本人を増やすという意味での一つの解は、若いうちに一回国際機関や、国際的な職場の経験をしてもらうことだと考えています。先にも言ったとおり、世界と日本では雇用システム自体が違い、価値観も違います。そういうことは、実際に海外に出て経験してみないと理解できない。若いうちに一度でもそういう経験をしておけば、その意識を持ったまま仕事の経験を積んでいけるので、その後のキャリアの積み方も変わっていきます。
業界団体に話に行くと、「業界全体で国際機関などにも出向させたい」という動きはあります。ただ重要なポストに、組織が急に「行け」と言っても、国際機関の経験がない者がいきなり重要なポストを務めるのは難しい。若いうちに経験を積ませて、国際機関で働く素養ができている人を増やしておくことが組織や業界側にも必要です。
個々人についていうと、「この分野なら私はできる」と日々の業務で自分の強みを磨いていくと、どういうポストを狙うべきか、どういう履歴書を書くべきかも、わかってくるでしょう。とにかく自分のキャリアを自分で意識して考えながら積んでいくことが必要です。会社に言われて流れにのって今ここにいると言う人は、自分の頭でまず考え、自分の強みを形成していくことが必要です。今までこういう経験があるからこのポストで力を発揮できる。そういう感覚を持って仕事をすることです。ただ、これは、国際機関就職に限った話ではなく、国内でも「自律的キャリア形成」などの言葉が注目されてきているので、既にそういう意識の人は多いかと思います。

後編に続く

インタビュアー 地引 英理子