【後編】

――若い人の意識は変わり、国内の雇用慣行は必要に迫られて変わってきている

地引:医療分野ですと、雇用形態が医局制度の上に成り立っていて、「海外で働きたい」と言うと「二度と日本の病院には戻れない」と言われた人の話も聞きます。また専門医に認定されるためには日本で症例をこなさないといけないなど組織に属さないといけない難しい立場があります。一方で、若いころに夏休みを利用して外国に行ったり、NGOのボランティア、研修に参加したりして、精力的に活動している人たちにも出会いました。見せていないだけで色々と悩みもあるのかもしれませんが、そういう人が増えて制度的問題を乗り越えていってくれると良いと思います。

松島:「雇用慣行を変えましょう」と言ってもなかなか変わるものではありませんが、必要に迫られれば、急激に変わっていきます。結局、外部環境や働く側の意識や職業選択の方法が変わっていけば、それに合わせていかざるを得ません。伝統的な方法があるとしても、感覚としてそれを必要と考える人が少なくなってきたら、仕組みや慣行も自然と変わっていくということでしょうね。
日本の国際機関人材に関する一つの課題として国際機関に就職する人材層の分野をもっと広げないといけないと考えています。これまで日本から国際機関を目指す人の中心は、若い時から国連などの仕事に興味を持ち、そのために学生時代から準備を始め、そこに向けてキャリアを重ねてきた人材層です。当然ながら、こういった人材は引き続き重要であり、そういう人が1人でも増えるようにしていくことに注力する必要があります。一方で、国際機関といえば、保健もそうですし、航空、気象、通信など様々な分野を扱うものがあり、それぞれの分野の専門人材を求めています。こういった分野の専門人材は、上述のように最初から国際機関を目指して、学生時代からキャリアを積んでいるでしょうか。つまり、「国際機関に行きたいから気象を専門にしよう」という人はあまりおらず、こういう分野の人材の国際機関への入り方としては基本的に、まず自身が培ってきた専門分野が先にあり、そのキャリアを進める中で、国際機関という選択肢が出てこないといけないのです。前号でも少し述べましたが、日本の生涯雇用を基本とする伝統的な雇用システムの中だと、なかなかこういったキャリアの進め方が主流にはなっておらず、必然的に、人材も増えにくい状況でした。今後は、各分野で、国際機関をキャリアとして考える人材を増やしていき、そのことでまた各分野で人材の動きが活性化するようになってくれればと思っています。そのためにもJPO制度なども使って国際機関に入っていってもらう、また国際機関就職について各業界や各人材層に向けて情報発信していくことにも取り組んでいかないといけません。

地引:国際機関で働いて日本に戻ってきて知見を還元する、または、国際化に貢献するという意味で、その業界・組織にとってよいことだと考えていて、ぜひ分野を広げてほしいと思います。

松島:国際機関やそこで行われる規範設定などを深く理解できる人材、もっとシンプルに言えば国際的な感覚を持っている人材が増えていくことは、組織や分野にとっても必ずプラスになります。これまでの「元の組織に帰ってくることを前提とした一時的な派遣」というモデルだけではなく、自然に行き来する人材が増えていってほしいと思っています。

――若いうちに海外を経験し、仕事として国際機関を目指すなら、まず応募すること

松島:前号でも触れましたが、国際機関の就職を考えるなら、空席情報を常にフォローし、まずは応募してほしいと思います。もちろんそれですぐに通る人は極少数でしょうが、ポスト情報をよく見て、応募書類を考えていく中で、自分に必要なものが具体的に見えてくるはずです。そして、本気で就職を取りにいくだけなら1-2個応募書類を出して一喜一憂するのではなく何十も出してほしい。もちろん、その全てが本命である必要はないですが、準備する中でしかわからないものがあるはずです。
また、職業柄、よく「どうやったらJPOに採用されるか」という質問をもらいます。まず第一に考えてほしいのは、JPOは「ジュニア」と名はついていますが、「インターナショナルスタッフのP2レベルの職員」として働くための制度であるということです。P2というレベルは、エントリーレベルとは言われていますが、小さい事務所などであれば、場合によってはその国の事務所長の代理などを勤めることもあるかもしれない仕事です。各国が人件費を肩代わりするJPO制度であっても、その仕事ができる人材でないと送ることはできません。なので、JPOとして採用されるということは、自分がそのP2の仕事が当然できる人間であるということを、自身の経歴や専門性を使って説得する作業になります。また、ここでいう説得とは、主観的かつ日本国内的な見方ではなく、客観的に、世界中の誰が見てもわかるものにする必要があります。そういったアピールをするためにはある程度場数を踏む必要があります。前号でお伝えしたように、JPO自体は興味があれば、とにかく応募して練習したほうがいいのは言うまでもないですが、それでも1年に1回のチャンスしかありません。なので、各機関の通常の空席応募も並行してどんどん応募していくこともお勧めします。応募しているうちに、「自分にはこの経験がないから書類でアピールできない」「今後こういう経験が必要になってくる」「国際機関で仕事をとっていくにはこういう分野に需要がある」等がわかってきます。もちろん、応募すればそのまま採用になる可能性だって十分にありますしね。とにかく国際機関就職はアプライをして始まるのです。皆さんにそこを知ってほしいし、その感覚を持つ人を増やし、それが結果的に国際機関等でグローバルに活躍できる人材が増えることにつながると考えています。