地引:たくさん応募することで初めて自分の適性や相手が求めていることについてわかるということですね。TOR自体をよく見ていなくて空回りし、ずれたCVを出してしまう人もいます。沢山応募して、求められていることと自身の提供できることの整合性を高める必要があるのですね。
松島:TORで何を求めているかに対して自分で答えを出せるとよい書類がつくれ、面接にも対応できるでしょう。働きたいと思える職種があり、そこで求められている経歴がないとすれば、そこに近づいていくようにキャリア設計をしていけばいいのです。自分の能力や経歴を客観的に理解し、優劣の問題ではなく、「自分ができること」とポストが合致しているかどうか、欠けているところがあると、もっと合うポストはないか探すことやそこを補う方向で動くという行動をすればいいということです。
危険なのは、「○○に行けば国際機関に近づけるかな」というような、なんとなく箱だけを見てキャリアを決めてしまうことです。求められるのは、専門性であって、ある分野の「プロの人材」です。なんとなく国際的な仕事につき、そこで言われるがままの仕事をしているだけでは、自分が何のプロであるかはわからず、また外から見ても何のプロなのかはわかりません。そのあたりも含めて「よくわからないので、とりあえず情報を得るためにもまず○○に入って考えてみよう」というのであれば理解できますが、すでに国際機関で働きたいという明確なビジョンがあるのなら、そこに向けてなるべく具体的な道を考えていけるといいです。繰り返しになりますが、問われるのは「どこで働いていたか」ではなく「あなたは何ができる人材なのか」ということです。
地引:20代~30代の限られた時間の中で、どの経験を積み、どのキャリアパスを通れば正解かを見極めるのはなかなか困難ですね。
松島:だから、応募していけばいいのです。やりたいと思うポストに応募して、自分を見つめ直す、こういうキャリアがないと難しいと気づいて足りないところを追っかけていくということです。なるべく早いうちに興味ある分野に応募して、修士号が必要ならその段階で取得する、オンラインで授業を受けられる大学院もたくさんあります。
地引:今のお仕事を通じて多くの若手を見て、国際的に通用する人としない人の差異は何ですか?
松島:あくまでJPO審査などの限定的な目線から見た印象ですが、全体像を構造として理解し、その中で自分のできることとやりたいことを位置づけられている人なら世界で通用します。JPOでもすごいなと思う人は、国際機関に何が求められているか、何をやろうとしているか、現実として何ができるかを俯瞰して理解したうえで、その中にある仕事について、「自分はこういうことをやりたい人間で、こういう経験や専門性があるからこの仕事に就いた方がいい」ということを一連のストーリーとしてアピールできる人です。それができている人はJPOにしろ、空席応募にしろ、遅かれ早かれ採用されるでしょう。
一方でこれはあぶないなと思う人は視野が限定的でかつぼんやりとしたイメージで考えてしまっている人です。例えば、グローバルヘルスの分野で言えば、「医療関係の資格経験があるのでWHOに入りたい」というくらいの解像度では難しい場合がほとんどです。例えばWHOは実際に治療するわけではなく、制度をつくり、ドナーと調整し行政の仕事をやるので医療現場の仕事とは大きな違いがあるはずです。また、UNICEFの保健分野とWHOでもアピールしないといけない部分は変わってくるでしょう。よくあるのは、「途上国でひどい状況を見たので医療で人を助けたい、人の役に立ちたい」というアピールです。もちろんその気持ちは重要で、強いモチベーションのアピールにはなりますが、一方で仕事の中身の話でもそのエピソードを使ってしまうと、「苦しんでいる人を直接助けたいのであれば、国際機関ではなく現地で自ら活動できるNGOなどに行ったほうがいいのでは」と思われてしまうでしょう。組織や仕事についての解像度を上げていく必要があります。
――国際機関入職後の壁を乗り越えるために
松島:国際機関は素晴らしいと思っても、そこは行政組織だし、当然資金がないと活動できないので、各国政府と泥臭い調整をして、そのほかにもやりたくないような作業もたくさんあります。入職後いきなりその壁にぶつかることがあるかもしれませんが、少なくとも、その組織がどういう構造で動いていてどういう仕組みでお金が入ってどのようにして世の中に影響を与えていけるか、できることとできないこと、求められることと求められないことを客観的にとらえられると道は開けると思います。
地引:そこまで考えていると、仮に入職後壁にぶつかっても生き残れるでしょう。
松島:担当部署で行き詰まった時、今述べたことがある程度わかっていれば、「ここは厳しいから一旦外へ出て別の経験を積もう」「別の部署へ移ろう」「もう少しがんばれば解決できる」などいろいろな選択肢から自分でキャリアをつくっていけますし、つくっていかなければいけません。
――キャリアアップの延長線上に国際機関はある。目指したい気持ちがあるなら、気負わず恐れず、まずは行動してほしい
松島:国際機関人事センターの仕事はとてもやりがいがあって、例えば変わりつつある若い人の意識を刺激したり、あらゆる分野の国際機関で活躍できる人を増やすことに向けて手を打ったりできます。
国際機関にしかできないことがあってそれは貴重な経験になります。日本の雇用慣行がスタンダードだと思うと国際機関を遠い世界のように感じ、あたかも清水の舞台から飛び降りる気持ちで挑戦するというイメージがあるようですが、応募書類を送って、認められると面接に進むというシンプルな話です。気負う必要はなく、シンプルに考えてほしい。そこに何が必要で、それに向かって自分が準備することに眼を向け、その延長線上に国際機関の仕事があり、そのための情報収集をおこたらないということです。目指したい気持ちがあるのなら、気負わず恐れずまずは行動してもらいたいと思います。
インタビュアー 地引 英理子
