国立国際医療研究センター
グローバルヘルス人材戦略センター
人材情報解析官
地引 英理子 [じびき えりこ]
外務省に勤務する家族とともに、幼少期をアメリカ、ニュージーランド、ルーマニアで過ごす。東京大学大学院で国際関係論、日英外交史を専攻。在英国日本大使館の広報文化担当専門調査員として2年間勤務した後、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)として国連世界食糧計画(WFP)へ。そこでグローバルヘルスに関心を持ち、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で公衆衛生修士号、東京女子医科大学で博士号を取得。帰国後は外務省で日本における国際保健政策の策定に関わるとともに、NGOで国際保健分野(感染症、母子保健、リプロダクティブ・ヘルス、栄養など)の仕事に携わる。現在は国立国際医療研究センターグローバルヘルス人材戦略センターに所属し、自身の経験を生かして国連、国際機関、国際NGOへの就職を希望する邦人の支援を行っている。
――国際関係への関心から、外務省の在外公館専門調査員に応募
地引:子どもの頃に9年間海外で過ごしたのですが、そこでは日本についてよく質問されました。国際関係に興味を持ち、大学院で日英外交史を専攻したのもそういった経験が背景にあります。そして国連高等難民弁務官だった緒方貞子さんのインタビューを聴いたり、犬養道子さんの『人間の大地』を読んだことなどがきっかけで、実務を通じて世の中の役に立ちたいと考えるようになりました。外務省在外公館専門調査員の存在を知ったのはそんなときです。イギリスで日英文化交流を担当するポストに応募し、無事に採用され在英国日本大使館で2年間勤務しました。仕事内容は、文化交流イベントの開催やイギリスの子どもたちを日本へ招聘するプログラムの実施などさまざまです。専門調査員という立場ではありますが、大使館職員と同様の仕事を任せていただいたため大変やりがいがありました。この経験は、後にジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)に応募する際に役だったと思います。とはいえ、当時から将来を見据えてキャリアを積んでいったというよりも、国際貢献に携わりたいという内から湧き上がる思いに素直に従ったといった方がいいかもしれません。
――国連世界食糧計画(WFP)の仕事から、グローバルヘルスへ関心を抱く
地引:専門調査員の経験を通して本格的に国際機関で働こうという思いを固め、任期終了後にJPOへ応募しました。実はJPOで最も大変なことの一つが、受け入れ機関のポストとのマッチングなのです。私の場合も、採用はされたもののマッチングに1年、派遣までに1年半かかり、その間は宙ぶらりんになってしまいました。しかし「いずれは派遣されるだろう」と、アルバイトをしながらのんびり待つ姿勢で臨みました。現在このマッチングと派遣までの期間は短縮しているものの、不安になる方が多いのも事実です。しかし、やきもきしてせっかくの時間を無為に過ごしてしまうより「何とかなる」と大きく構えていただいた方がよいように思います。
WFPで最初に配属されたのは、東欧の国々に食糧援助を行う東欧局でした。途上国を希望していたので最初は残念に思いましたが、本部では本部や各部署の役割が分かり勉強になりましたし、やがて希望が通りラオスへの派遣が決まりました。ラオスで学校給食・学校保健に関わったことから、グローバルヘルスに深い関心を持つようになりました。それに伴い、もっともっとグローバルヘルスを勉強したいと思うようになり、働きながらロンドン大学衛生熱帯医学大学院に入学し、通信教育で学び始めました。グローバルヘルスのパイオニアとして優秀な人材を輩出する大学院だけあって、サポートがない中、勉強もレポートも必死で取り組まなければついていけません。途中で諦めようと思ったこともあったのですが、同様の通信教育をやり切った方に励まされ、準修士課程と修士課程を10年かけて修了しました。
――海外での勤務経験は、国際機関で仕事をする土台となった
地引:WFPは私にとって初めての国際機関勤務で、どんな仕事をどのようにこなすのか、ほとんど情報がない状態で現地に赴きました。専門調査員の職場では日本人と現地職員の外国人が半々でしたが、WFPの部署で日本人は私一人だったため緊張もしました。しかしイギリスでの2年間で、海外で仕事をする心構えや柔軟性はできていたように思います。国連は多様な社会・文化背景を持つ方々が集まる場所ですが、意外と皆さんが感じる問題意識や課題は似ていて、困ったことがあると他の職員も同じことを考えていたりして、解決に向けて意見を出し合える土壌がありました。むしろ日本の職場文化よりも相談しやすいと感じることが多かったです。逆に、黙っていると意見がないと思われるので、自己主張は積極的に行う必要があります。周囲の働き方を観察しながら徐々に慣れていくことになりますが、周りも同様の状況を乗り切ってきた方々なので、成長を見守ってくれる雰囲気はあると思います。
――今までの経験を生かし、海外を目指す方々をサポート
地引:家の事情で日本へ帰国した後は自力でポストを探し、外務省やNGOのグルーバルヘルス分野で今までの経験を生かしてきました。そして現在は、国立国際医療研究センターグローバルヘルス人材戦略センターに勤務しています。かつての私と同じように国際貢献の志を持ち、保健関連の国際機関での活躍を目指す方々の支援を行っています。センターでの仕事は、人材の発掘と国際機関を目指す方々のサポートです。特に国際機関へ人材を派遣するため、受験対策ワークショップ、職種・分野別キャリア・セミナーの開催、進路・受験相談のほか、履歴書添削などを実施しています。また、IT技術者と協力して人材登録・検索システムを構築し、人と仕事のマッチングと登録者への情報提供も行っています。悩みながらもグローバルなキャリアを模索する受験生の姿が自分の若い頃と重なり、いつも相談してくださった方が苦労をして合格を勝ち取ったときは自分のことのように大きな喜びを感じます。