――最初の関門が「2年間の職務経験」
地引:センターで一番よく聞かれる質問は「どのような職務経験を積めば国際機関への仕事につなげられるのか」ということです。しかし、それに対しては「正解はない」とお答えするほかはありません。国際機関で働くためには、応募する時点で「仕事をするだけの高度な語学力」「働きたい分野での修士号」のほか、最もジュニア・レベルの仕事であっても「その分野の最低2年間の職務経験」が必要となります。
2年以上の職務経験がない場合は、なんらかの組織で2年以上の経験を積む必要があります。国際的な職務経験を得られる仕事に就いている人が多く、国際協力機構(JICA)の専門家や海外協力隊、外務省の任期付き職員、在外公館専門調査員、経済協力専門員、草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員、厚生労働省の任期付き職員、感染症危機管理専門家、国立国際医療研究センターの国際医療協力局医師・看護職、国内外の国際協力NGO、コンサルタント会社、外資系企業などが考えられます。
2年以上の職務経験がある場合、35歳以下の方は日本政府が実施するジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度のほかに国連事務局ヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)や、さまざまな国際機関が独自に行う若手採用制度にチャレンジができます。36歳以上を対象に、外務省国際機関幹部候補職員や、世界銀行のミッドキャリア(MC)がありますが、募集はあまり多くありません。35歳以下・36歳以上共通の仕事としては、国連ボランティアのほか、国際機関が常時募集している空席公募ポストやコンサルタント・ポストへの応募が一般的です。
最近は民間の製薬会社、コンサルタント会社、グローバル企業を経て応募する方が増えていると感じます。実際、企業のワクチン開発支援を行うGaviでは民間企業での経験が生かせるため、製薬会社から転職した方もいます。また、コンサルタント会社で培った戦略的な企画立案能力を国際機関で発揮する方の話も聞きます。逆に、国際機関から海外の製薬会社に転職するパターンもあります。民間企業と国際機関の連携が進む現代では、組織をまたいで柔軟に働ける方が重宝されると思います。

――「やりたいことを追求し続けた先に国際機関があった」という形が理想的
地引:私は在外公館専門調査員として勤務することで職務経験を得ましたが、JPOへの応募者や合格者の経歴はバラエティーに富んでいます。「こういう仕事をしていなければダメ」という基準はなく「こんな職務経験が合格しやすい」というパターンもないのです。ただいえるとすれば、国際機関で仕事を得る方は、一つだけではなく、複数の職場を経験している場合が多く、且つ、国際的な環境で職務を経験した方が多いということです。
そういったことを考えると、最初から国際機関を目指すというより、自分のやりたいことを追求してキャリアを積んでいった先に国際機関での仕事にたどり着いた、となることが理想的ではないでしょうか。一見遠回りに感じるかもしれませんが、その方が国際機関で職を得てからのミスマッチも少ないように思います。ただ、JPO制度を活用できるのは35歳までなので、36歳以降は世界中の応募者と競争をしてポストを勝ち取る必要があります。そうなると厳しさは増しますので、そのことも念頭においてキャリア計画を立てるとよいでしょう。
――好奇心をもって積極的に海外経験を積んでほしい
地引:実際問題として、30代後半以降にキャリア・チェンジを考えても、それまでに海外経験がないと国際機関で働くことはかなりハードルが高くなります。なので、海外の仕事に少しでも興味がある方は早い時期から積極的に海外に出ることをおすすめします。海外旅行や留学は、日本だけではなく海外の政治経済や医療の問題に目を向けるきっかけを作ってくれるでしょうし、在籍する日本の大学・大学院で海外研修を実施していればそれに参加するのもよいと思います。国立国際医療研究センター国際医療協力局でも毎年途上国を訪問するフィールド・トレーニングを開催しています。国連フォーラムのメーリングリストに登録していれば、大学や国際機関、NGOなどのフィールド・トリップやインターンの情報が得られます。ぜひ若いうちから関心を持ってアプローチし、海外を経験してください。
また、前述の諸機関が実施するキャリア・セミナーに参加をしたり、国際機関の現役職員の話を聞いたりして準備を進めるとよいと思います。また身近に「こういうキャリアを積みたい」「こういう働き方をしたい」というロールモデルになる方がいれば、思い切って進路相談に乗ってもらうのもよいでしょう。人に相談することで客観的に自分を見つめ直すことができます。その上で足りない部分を見極め、必要なスキルアップを行えば、確実にステップアップにつながるでしょう。グローバルヘルス人材戦略センターでも進路相談やさまざまなワークショップを開催していますので、あまり考えこまずに、ぜひ一度アプローチしてみてください。
――海外へ出た後のキャリア形成は十人十色
地引:国際機関で仕事を得た後のキャリアは人それぞれです。任期修了後は帰国せず国際機関で働き続けることを選択する方もいますし、日本に帰国し病院やNGOなどに就職する方もいます。前者の場合は自分自身でポストに応募し、競争を勝ち抜くタフさが求められますが、働く場所や働き方を自分で選択できるという大きなメリットがあります。国連の場合、職員はP1〜5、D1〜2などいくつかのランクがあり、上のランクのポストほど責任が大きくなります。しかし辞令で昇進が決まる日本企業と異なり、国連では働きたい国、機関、ランク、ポストを決めるのは自分自身です。中には専門性の活用やプライベートを重視して、あえて上のランクを目指さない方もいます。
このように自由が利く環境では、自分の軸を持つことが大切だと思います。実際に、家庭、趣味、信念など、仕事以外で自分の軸を持っている方が国際機関には向いているように感じます。実力主義の世界でキャリアや人間関係に悩むことがあっても、自分の軸がしっかりしていればそれを乗り越え、やりたいことを追求するエネルギーに変換することができるでしょう。
――国際機関だからこそできる経験がある
地引:国際機関での仕事には、一つの国にとどまらず、グローバルな政策決定に関わることができるダイナミックさがあります。それだけでなく、めったに経験できない特別な体験を味わうことができる醍醐味もあります。私がWFPで仕事をしていたとき、紛争下のチェチェン共和国を訪れる機会がありました。そのときは食糧事情が厳しい中、現地の方がご馳走を作って温かくもてなしてくれました。そのとき触れた人の優しさは生涯忘れることができません。ラオスでは山の中を十数時間かけて車で駆け巡ったり、村々に寄って話し合いをしたり。その経験のすべてが今の私を形作っています。国際機関を目指す方々は、誰かの役に立つために日本を飛び出したいという熱い思いを心に秘めていると思います。海外で仕事を得ることは簡単ではありませんが、熱意があり必要な努力ができれば、必ず道は開くということを多くの方の体験を通じて見てきました。思いを成就させるためにも、ぜひチャレンジしてください。
インタビュアー 佐藤のりこ
